17 February

連載小説「風の思い（仮題）」　公開第一回目

第1章　唐突に訪れた異世界

第一幕

視界一面が闇に閉ざされてどれくらい経つのだろう・・・・

自分自身の感覚がどれも信じられずただ闇の空間に体を任せていた。
「これが死後の世界なのかな？私・・・ずっとこのままなのかな・・・」
心の中でつぶやいた言葉に応える者はいるはずもなかった。

「そういえば・・・・イシスはどうなったんだろう・・・」
先ほどまで死闘を繰り広げた相手のことを思い出す。それを皮切りに色々な顔が脳裏に浮かぶ・・・・旅団を組んだときからの付き合いだった愛嬌たっぷりなドワーフの娘や一緒に戦った仲間たち・・・そして恋人の笑顔・・・
「もう誰にも会えないかも・・・・」
心をそんな寂しさが支配していくのを感じたが、それが今はごく正等なものに思えた。
虚ろな空間に身をゆだねながら・・・・

・　　　　　　・　　　　　　・　　　　　　・

ブリタニアの空はどこまでも青い。。。。はずなのだがブリタニアとはファセットの異なるマラスではここ数日は特に例外が発生しているらしい。
「まったく・・・・いつになったら止むのかしら」
数日来止むことのない長雨にうんざりしながらてきぱきと皆が食べ終わった朝食の皿を洗いながらセツナはカウンターごしに声をかけてみた。
カウンターの先にいるのは傭兵たち・・・・ブリタニア北東に位置する砦を基点に治安維持を勤める猛者・・・
実は1年前はまだ駆け出しだったガイアをはじめとする戦士たちの一団とそれを指揮する立場にある弟のカルラである。
「さぁなぁ・・・少なくとも異常ってのはわかるんだが天気が相手じゃどうにもならないだろ」
至極まっとうな返答をかえしたカルラは食後に出された紅茶をすすりながら外を見やった。
「とにかく・・・なにかの前触れじゃなければいいんだがな・・・」
カルラの言葉に戦士たちは一様にうなづいた。
そうでなくても1ヶ月前に発見されたエルフの出現でブリタニアは話題がもちきりなのだ。
これ以上なにか起こっても対処できないというのが本音にはある。
「ガイア、エルフを狙ってコーブのオークたちがまた動き出すかもしれん、警戒は怠るなよ」
これだけ命じるとさっさとカルラは部下の敬礼を受けつつ自室へと戻る。当人にとっては久々の休日なのだ。
任される立場になったガイアたちは各々の装備を持って出発準備に入った。
「いってらっしゃいな、無理はしないようにね」
セツナのこの言葉聞きたさにわざわざ遠出までして朝食を取ってる彼らにとってはなによりの励ましである。

・　　　　　　・　　　　　　・　　　　　　・

戦士たちを送り出したセツナはランチの時間の営業を終えると夜の営業がないのであとはお休みになる。
1週間のうち数日はもう一人店員がつくが、朝食のパン焼きからなにからほとんどを一人でこなすだけに昼の営業を終えるともうヘトヘトになる。
看板を「Close」にするとその日はめずらしくカウンターに突っ伏してしまった（よく考えると凄まじく無防備なことを・・・と反省）。

何故か夢の中で彼女はこんな声を聞いた。
「風の娘がまもなく降り立ちます・・・助けられるのは貴方しかいません・・・オークたちよりも早く彼女を見つけて・・・」
きいたこともない声なのだが、凛と響く声に威厳と慈愛を織り交ぜた感覚を感じた。
「・・・といってもどこに？？それにオークってまさか・・・・」
「私には海に近い大きな砦が見えます・・・そして貴方の数倍はあろうという体格のオークの姿が・・・」

「！！！！」
ここでセツナは意識が現実世界に引き戻された。すっかり寝入っていたせいか、自分の旅装用のマントがかけられていた。
「カルラ？」彼女は弟の名を呼ぶがどうやら出かけたのか反応も気配もない。そこで手元に置手紙があることに気づく。
そこにはヒロマサのところへ頼んでいた樽をもらいに行くとだけ書いてあった。
「まったく、こういうときに役にたたないなぁ・・・」思わずセツナは嘆いたが夢にきいた声だけで反応してもらえるとは思えないのも事実である。
胸騒ぎが止まらないセツナは慌てて自室に駆け込むやいなやエプロンを脱ぎ捨て戸棚の置くにしまったままになっていた狩人時代の装備を身につけた。
軽量の金属で強化した皮鎧に弓矢、短剣の一そろいである。
そしてカウンターにはコミュニケーションクリスタルの受信機を置くと脱兎のごとくカフェを飛び出した。
コミュニケーションクリスタルはカルラが戻ってきたときに気づいてもらえるかもという期待値で置いたものだったがあまり期待はしていなかった。
最終的にはこれが彼女と現れることになる「風の娘」エア・マルスを救うことになる。

（つづく）